2011マイ・ベスト・ブック
奈良は、寒いです。それになにが悔しいたって、帰ってきたら忘年会のシーズンが終わっていたこと。
でも良いこともあったんです。今年書いた記事がぴったり48件、縁起がいいかも。・・・TKH48ってわけですから。
んなことはともかく、今年のマイ・ベストブックです。48冊くらい、挙げたかったなぁ。
①バーバラ・ピム、よくできた女(2010)
⑤サロイヤン、人間喜劇(1957)
☆2012年も、よろしくおねがいします。
奈良は、寒いです。それになにが悔しいたって、帰ってきたら忘年会のシーズンが終わっていたこと。
でも良いこともあったんです。今年書いた記事がぴったり48件、縁起がいいかも。・・・TKH48ってわけですから。
んなことはともかく、今年のマイ・ベストブックです。48冊くらい、挙げたかったなぁ。
①バーバラ・ピム、よくできた女(2010)
なにも劇的な事件は起こらない。風変わりな人物も登場しない。ありふれた田舎の街を舞台にして、ある時代の平凡な日常と生活風景を描く。それでこんなに味わい深い (静かでおかしくてシニカルで暖かくて哀しみまである) 作品が出来上がるのだから、小説ってすごい。それだけ柔軟で豊かで繊細で鋭い眼を持つ作家というのはすごいなと、改めて感じさせられたのでありました。
バーバラ・ ピム (1913-1980) は、「もっとも過小な評価を受けた20世紀作家」と呼ばれたりするらしい。先の「秋の四重奏」(1977)が後期の代表作、今回の「よくできた女」 (1952) が前期の代表作、なるほど邦訳もこの二冊、たったの二冊しかない。こんなにすばらしい小説が、いったい何処に埋もれていたのかと思う。実際に「秋の四重奏」を読んだときは唸り、今回は「なんとよくできた小説」かと感嘆した。小説の面白みというのは、こういうものを指すのかなと思う。
②シャモワゾー、カリブ海偽典(2010)
「カリブ海偽典」(2002)は、約1000頁の大長編である。植民地独立戦争の戦士であった老人が、死の床の中で、自身の長い長い回想録を語り始める。 〈シャモワゾー〉は、その回想を書き記すべく召喚された言葉の記録人である。そして、その記録をまとめたのがこの作品であるという設定になっている。
ところが、この老戦士は言葉を発しない。自分の生涯の思い出を、すべて身ぶりによって語るのである。シャモワゾーは、その身ぶりを言葉に翻訳する役目を託され たのであるが…。
それはもう奇妙な物語である。身ぶりによって表現される回想録という作品の設定からして奇妙であるのはもちろん、その回想録がほとんど彼の幼年・少年時代のものに偏していたり、女悪魔に取り憑かれた少年が救われた助言者によって育てられたり、革命の理念や独立の理想よりも生涯のなかで出会った女性たちのはなしに物語の多くが向けられていたり…。しかしそんな設定に戸惑っている暇はない。なにせ1000頁の大長編の中には、みごとなほど豊 かなカリブと物語の世界がぎっしり詰まっていて、これを読みほどいていかねばならないからである。ああたいへん。
③舞城王太郎、やさしナリン(2011)
「やさしナリン」は、舞城王太郎の新作、『新潮』2012年1月号に掲載の中篇。
“可哀想に弱く、やさしさに過剰に突き動かされて突飛な行動を取ってしまう”という問題を抱えた兄妹を主題に描く。ノヴェルスを主戦場としていた時期と比べると、ずいぶん速度もパワーも控え気味ではあるけれど、物語の縁に、文章の端々に舞城らしい感覚を見ることができて、久しぶりの作品を楽しんだのでありました。最近の舞城作品は、うがった見方をすれば、「逞しいネオ青春小説」を書こうとして、どういうわけか「優しい家族小説」のようなものになってしまっているというような捉え方もできるのだろうけれど、そこはそれお正月だということでこちらも優しい眼でみてあげればいいのだと思うのである。
④チェイムバーズ、黄衣の王(2010)
「黄衣の王 」(1895-1920)、この連作集は、読むだけで恐怖や絶望をもたらすという『禍の書』をめぐる物語で構成されている。こんなふうに完成された作品が百年も前に書かれていたことにまず驚く。これを先に読んでいたら、それ以降の20世紀のホラーもエスエフも読まずに済むのか もしれない。そんなことを思ったりした。それほど、完成度が高い。この独特の怪異小説集は、優に百年を越えて未だに怪しさを保っているのでありました。
⑤サロイヤン、人間喜劇(1957)
「人間喜劇」(1943)の舞台は、1940年代のアメリカ、『イサカ』という架空の町、そこで暮らすアルメニア系移民の一家と町の人々を描く。移民の少年の物語というのは、この作品だけではなく、サローヤンが何度何度も取り上げているテーマなのであるが、だからといって読み飽きることはない。読むたびに、小説を読むたのしさ を味あわせてくれる。50年以上も前に書かれた作品であるにもかかわらず、今もみずみずしさとあふれるような魅力を湛えている。